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災害のときに使えるデジタルの土台は、災害のために作るのではなく、普段使っているものをそのまま持っていける形にしておくのがいいのではないかな、という話。


作ってみて、はじめてわかったこと

2026年7月末に起きた熊本の地震に関連して、現地で支援に入っている人たち向けに、ボランティアの人員配置を助けるツールを作りました。誰がいつどこに入るのかを整理する、それだけのものです。

日本は災害が多い国なので、以前から「災害が起きたときにすぐ使えるデジタルの土台のようなものが作れないかな」とずっと思っていたんですよね。何かあったらすぐ立ち上げて、みんなで使いはじめられる。そういう状態になっていればいいのにな、と。

でも、実際にやってみて感じたのは別のところでした。難しいのはツールを作ることではなくて、そのツールを使う人たちとの連携をどうやって作っていくかのほうだった。

考えてみれば当たり前で、道具は置いてあるだけでは動きません。誰がそれを見て、誰が入力して、誰がその結果で動くのか。その約束ごとがないと、画面はきれいでも中身は空っぽのままです。

これ、駅や学校の壁にかかっているAED(自動体外式除細動器:心臓が止まった人に電気を流して助ける機械)に似ているなと思いました。あの箱、どこにあるかはみんな知っています。中身もちゃんと点検されている。でも、目の前で人が倒れたときに動くには、機械だけでは足りません。誰かが倒れた人に駆け寄って、誰かが箱を取りに走って、誰かが救急に電話をかける。そこまでの役割が同時に立ち上がって、はじめてあの機械は役に立つ。

道具の問題ではなく、道具と人のあいだの問題です。

平時に連携は作れるのか

じゃあその連携を普段から作っておけばいいじゃないか、という話になるんですが、これがなかなか難しい。

何も起きていないときに「災害が起きたらこの画面を開いてください」と言われても、たいていの人は覚えていられません。私だって覚えている自信はない(笑)。使わないものは、忘れます。年に一度の訓練で思い出せるのは、せいぜい避難経路くらいじゃないでしょうか。

だから災害用のデジタルの土台というのは作りにくいんだな、というのが、今の私のいったんの結論です。

実はこれ、普段の職場と同じ話

ここまで書いていて気づいたんですが、これ、災害に限った話ではないんですよね。会社や役所で仕事のやり方をデジタルに置き換えていく、いわゆる業務のデジタル化と、まったく同じことを言っている。

新しいシステムを入れました。研修もやりました。それでも半年経つと、みんな元のやり方に戻っている。表計算ソフトで作った表がメールで飛び交って、最後は電話で確認している。そういう話、聞いたことがあるんじゃないでしょうか。

あれも結局、道具は入ったけれど、誰がどこで入力して、誰がそれを見て、誰が判断するのかという仕事の流れのほうが変わっていないから起きることです。道具を入れることと、道具を使う関係を作ることは、まったく別の仕事なんだと思います。

そう考えると、災害のときの話は特別なことのように見えて、実は普段の職場で毎日起きていることが、時間を圧縮して極端な形で現れているだけなのかもしれません。しかも災害のときは、はじめて会う人同士がその日のうちに連携しないといけない。難易度は職場の比じゃないですよね。

非常食ではなく、ローリングストック

では、災害のときのためだけに何かを作るのか。きっと、そうではないと思うんです。

私たちが普段使っているものを、そのまま災害時に持っていければいい。新しく覚え直す必要がないぶん、連携も一緒についてくる。

これ、食べものの備えの話と同じかなと思っています。何年も棚の奥に置いておく非常食ではなく、普段の食料を少し多めに買っておいて、食べたら買い足す。ローリングストックと呼ばれるやり方です。あれのデジタル版があればいい。

ただ、ここでまた壁にぶつかります。普段の仕事やそれ以外で使っているツールは、人によってバラバラなんですよね。連絡はLINEだという人、Slackだという人、いや電話ですという人。表計算ソフトを使いこなす人もいれば、紙とペンがいちばん速いという人もいる。災害の現場に集まるのは、まさにそういう人たちの寄せ集めです。

抜き出せるのは、たぶん真ん中の部分

だからといって、まったくできないという話でもないと思っています。

特定のアプリに合わせて作るのではなく、どのやり方でも共通して必要になる中心の部分だけを抜き出して作る。それを土台として用意しておいて、あとはそれぞれの現場に合わせて足したり削ったりできる形にしておく。そうすれば、決して無理な話ではないのではないかなと。

たとえると、電源プラグの形みたいなものでしょうか。炊飯器も扇風機もパソコンも、中でやっていることはまるで違うのに、コンセントの形だけは同じだから、どこに持っていっても挿さる。あの「同じにしておく部分」だけを見つけられればいいんじゃないか、という感覚です。

人員配置のツールで言えば、「誰が」「いつ」「どこで」「何をする」という四つくらいが、たぶんその真ん中にあたる。そこさえ共通の形で持っておければ、表示するのがWebの画面でも、表計算ソフトでも、印刷した紙でも構わないはずです。

では、その真ん中はどこまで小さくできるのか。ここが面白いところだなと思っていて、しばらく個人的なプロジェクトとして追いかけてみようかなと思っています。

答えが出るかはわかりませんが、次に何かが起きたときに、少しでも早く形になるものが手元にあるといいなと考えています。それはたぶん、災害のときだけでなく、普段の職場でも同じように役に立つものなのではないかなと思っています。