便利にするはずの道具が、なぜ増えて複雑になるのか
/ 8 min read
Table of Contents
業務を楽にするために入れたはずの道具が増えすぎて、かえって現場を複雑にしてしまう。その悪循環はなぜ断ち切れないのかという話。
中小企業のデジタル化を手伝っていると、非常によく見かける光景があります。
業務効率化のために導入したはずのシステムや道具が、いつの間にか増えすぎてしまい、かえって現場を混乱させているという状況です。
良かれと思って入れたものが、機能が重複していたり、自社の規模に対して高機能すぎたりする。しかもその状態が、すでにできあがっている。
「もったいない」の壁
私たちが入って、道具が重複していることを把握し、「整理しましょう」と提案しても、実際にはなかなか実行に移せません。そこには、いくつかの大きな壁があります。
最大の理由は、「すでにお金を払っている」という心理です。
今すぐ解約しても、支払った費用が戻ってくるわけではありません。「契約期間が残っているなら、使い続けたほうが得だ」と考えて、見直しを先延ばしにしてしまう。
そして多くの企業が「次の更新のタイミングで考えよう」と判断します。でも、更新時期が迫ってから検討を始めても、実は手遅れなんですよね。
なぜなら、業務はその道具を使うことを前提に回っているから。道具を変える、あるいは減らすということは、「業務のやり方そのもの」を変えるということです。短期間で業務の流れを変更するのは、現場にとって大きな負担で、まず無理。
結果として、「準備が間に合わないから、とりあえずあと1年更新しよう」という判断が繰り返されて、5年も同じような道具にお金を払い続ける。この負のループに、けっこうな数の会社がはまっています。
「お付き合い」の呪縛
機能やコストとは別の次元で、「昔からお世話になっているベンダー(システムやサービスを販売する会社)さんだから」という理由で契約を続けているケースも、非常に多いです。
「社長の知り合いだから」「以前、無理を聞いてもらったから」といった人間関係が絡むと、合理的な判断ができなくなる。
こうなると、私たちのような外部の人間が「こちらのほうが安くて高機能ですよ」「これとこれは重複しているので整理しましょう」と客観的な提案をしても、「わかっているけど変えられない」と断られてしまう。手出しができなくなるんですよね。
そもそも、なぜ増えるのか
では、なぜ最初から全体を見た選び方ができないのか。ここにもいくつか要因があります。
ひとつは、ベンダーへの依存です。ベンダーも商売ですから、新しい道具の導入を提案します。ときには、お客さんがすでに持っている道具で解決できる課題に対しても、担当者が把握しきれずに新しい商品を勧めてしまうことがある。
ふたつめは、「今のやり方」への固執です。複数の道具を比較したとき、機能が同じでも「今の操作感に近いもの」「現場が慣れているもの」を選びがち。部分的な使いやすさだけで判断して、会社全体の構成を無視して導入してしまう。
そして三つめが、「新しいもの好き」の暴走。社内にデジタルに詳しい担当者がいるのは良いことですが、その人が全体を俯瞰(ふかん。高いところから見渡すこと)できず、「新しい技術を試したい」という個人の興味だけで導入してしまうと、社内の仕組みはどんどん複雑になっていきます。
これ、耳が痛い人もいるんじゃないでしょうか。実は私にも心当たりがあります(笑)。
誰かが断ち切るしかない
このジレンマを解消するには、経営者による決断が要ります。
たとえお金が戻ってこなくても、「次の更新に向けて今から整理を始める」と決めること。そして、現場が抱く変化への抵抗感を理解して、丁寧に合意を取りながら進めていくこと。
「便利にするための道具の導入」が、「道具を使うための業務」になってしまっては本末転倒です。
社内に「全体を俯瞰して、本当に必要なものかどうかを判断できる人」を置いて、部分ではなく全体で考える。地味ですが、そこからしか抜け出せないのではないかなと思っています。